トラウマサミット2022【ジェニーナフィッシャー】セラピストはクライアントのパーツランゲージの翻訳家

2022/07/18

パーツ(副人格)は私たちの防衛戦略から生まれたもの


現代におけるトラウマサバイバーは、下記のような点でも困難があります。
・1体1のケアが必要なため、莫大な費用がかかる
・セラピストを攻撃したり、否定したり、反発する場合に、さまざまなパーツどうしの葛藤があるため、発言していることと、行動していることには矛盾や対立があるため、理解されることが難しい。
・トラウマに基づいたセラピーが、セラピストに知られていないため、適切なセラピーを受けられないことが多い。
例)認知行動療法はトラウマのあるクライアントには、前頭前野のシャットダウンがあるため、有効ではない場合がある。

自己破壊的な行動は 危険や喪失の脅威によってトリガーされる生存反応であるとジェニーナフィッシャーは言っていますが、例えば、自己破壊的行動として、昨今話題になっている殺人事件なども、法律的観点では正当防衛ではないものでも、トラウマの観点からは、本人の内面においては生存反応の場合があるかもしれません。
これを社会でどのように取り扱っていくのか、ということについて、まだまだ私たちは課題が山積の状況です。

内的家族システムは、「自己」に関するパラダイムシフトです。

これまで、私たちは「自分が感じていることが自分だ」と考えてきたので、それを信じて疑わないことがありますが、内的家族システムではそのように考えません。

クライアントが絶望を感じると言った時に、セラピストは「絶望を感じるパーツがあるんですね」とリフレーミングして、翻訳していき、絶望を感じているのは「私」ではなく、「私のパーツ(副人格)」なのだと考えるところに画期的な点があります。

内的家族システムには、私たちにとっての「自己」の意味のパラダイムシフトがあります。

セラピストは、クライアントが絶望を感じているのではなく、クライアントの一部のパーツが絶望を感じているとリフレーミングすることによって、トリガーとなる刺激と、クライアントの心理的反応の間にスペースをつくっていきます。

その「スペース」から癒しが起こる。

もし、クライアントが「自分」がそう感じていると信じていると、トリガーとなる刺激と心理的、身体的反応の間には「スペース」は生まれず、癒しは起こらないでしょう。

ジェニーナフィッシャーは、リチャードシュワルツの内的家族システムとパットオグデンのセンサリーモーターサイコセラピーを統合していますが、この二つに共通点は、トラウマを受けていようがいまいが、どんな人にも、破壊されることのない高次の自己(ハイヤーセルフ)が存在し、その自己から、傷ついたサブパーソナリティ(パーツ)を目撃することで、自己治癒力を高めることができるという考えです。

インテグラル理論のケンウィルバーも。アウェアネス(気づき)は、癒しそのものだとも言っています。

トラウマセラピーの最前線を学んでいくと、そこには、単にスキルや知識を身につければできるようになるという「水平的な成長」だけではなく、セラピスト自身の意識の発達という「垂直的な発達」が必要だということをつくづく感じます。

「高次の自己」からの「目撃」という表現も、スピリチュアルっぽい話として聞くか、セラピストの「垂直的な発達」として捉えるかによって受け入れ方が変わってくると思います。
「垂直的発達課題:適応的課題」というのは、技術的課題との対立概念で、「長期的で、継続的で、変容的な課題」のことで、まさに「発達が必要な課題」です。
私たちは、「発達課題」に直面した時に、「技術的な課題」と混同する傾向があります。

Everyday Evolutionの活動として、対人支援者の方と成人発達理論を通じて、単に支援ツールの情報を提供したり、スキルアップを伝えるのではなく、技術的・スキル的な問題と、適応的・発達的な問題を区別し、クライアントが求めている支援者の発達ということに対して最新の研究結果をシェアし、取り組んでいきたいと思っております。